またたび感想録

観たもの聴いたもの読んだものの感想を述べます。

アニメ『葬送のフリーレン』(所感)

これはいい…数年前から「この漫画がすごい」にランクインを繰り返していた作品が満を持してのアニメ化。持て囃されすぎて原作には手を出してないのでアニメが初見。テーマがシンプルで、美しい作品。

 

今漫画読みに刺さるのはこういう作品なんだ、と腑に落ちまくる。

長い長い時間を生きるエルフが、「君のことを知らない」と涙を流すところから物語がはじまる。力も知恵もある魔法使いとして旅を続けながら、人を知ろうとする。

人を知らずに生きるのはエルフじゃなくても同じで、温かな信頼とか情が物語の中には在る。こういう夢に癒されたりするのかもしれない。実際癒される、この作品。

 

全力で作り上げられた美しい夢の中には、現実に持ち帰れるモノが確かにある。

のだけれど、現実の中にそれを見つけるのはなかなか困難で、しんどさに押し流されていく。フィクションに救われる消耗戦を繰り返す。

現実に見出せるのはもっと混沌として不明瞭な、しかし確かにフィクションの中でみた夢とよく似たモノだ。それは確かにあって、作家はそれを磨いて包んで作品にしているのだろう。

 

万人に夢を見せて、その中の一握りが現実に何かを持ち帰って来られるような作品が、名作なのかもしれない。『葬送のフリーレン』はたぶんそういう作品なのだと思う。

 

人を知りたいと願う人間がどのくらいいるだろうか。興味もない、人のことなんて気にしている余裕がない人はたくさんいるけれど、別にそれだって人は生きて死んでいく。

それなら知りたいと願える人間と出会えたフリーレンは幸福かもしれない。長く生きた甲斐があったのかも。知りたいという望みがもたらすものが必ずしも幸福なのかは分からないけど、彼女の長い人生の中では革命的なできごとになるのだろう。