またたび感想録

観たもの聴いたもの読んだものの感想を述べます。

谷口菜津子『ふきよせレジデンス』上・下

久しぶりにひとめぼれ方式で漫画を買った。

これは「ひとり」たちがゆるやかにつながるお話。

 

偶然同じアパートに住んでいる人々。

ちょっと風変わりなツルカメコンビニ。

夢に破れた過去と振られた彼女への未練でできているムーバーイーツのお兄さん。

季節の和菓子を愛好する校閲のお姉さん。

両親を亡くして叔父の隣の家で暮らす女子高生。

オンとオフが魔法少女並に変わるツルカメコンビニの看板店員。

日常のふとした場面をきっかけに関わりがはじまって、気がついたら「ひとり」たちの輪ができているような、背伸びしないけどいろんな想いを抱えて日常を生きている話。

 

最終話で現れた大きな輪の中では、誰が真ん中とかじゃなくて、それぞれが生きて、この場所を選んでその日そこにいるのが分かる。

誰かが光る話じゃなくて、生きている人それぞれが街を彩っていくのだと、そういうやさしさがある。

それぞれに光と影があって、いつも楽しいわけじゃないけど、いつもかなしいわけでもない。

誰かのことを思ってみたり、見えない未来に思い悩んでみたりしながら、切実に、だけれどもゆるやかに、日々の中で微妙な変化を重ねながら、息づいている。

 

読んでる途中できっと、ツルカメコンビニのお弁当が食べたくなる。いい感じに言っているようで、ただの食欲の発露である。