またたび感想録

観たもの聴いたもの読んだものの感想を述べます。

『ロストケア』

「安全地帯にいるあなたに何が分かるんですか」

「人間は見たいものだけ見る、見たくないものは見ない」

 

昨日本屋さんでCMが流れていて、思い立って今日観に行くことにした。(4/2)

 

かつて父親の介護に疲弊して限界を迎えた男が、父の「殺してくれ」という希望を受けて父親を手にかけた。そのまま介護職につき、介護に疲弊した家族と当事者を救うとして3年間で41人を手にかけ、逮捕される。

対峙する検事は、綺麗事が、法の理屈が通用しない現実に動揺し、言葉を失いながらも、判決まで漕ぎ着ける。検事にもまた、職務を離れれば20年間音信不通だった父親の孤独死の現場に立ち会い、母親を老人ホームに預けて時折面会に行っている生活がある。

支援の穴に落ちた救われない人たちを救ったと語りながら、男の最初の殺人にはどうにもならなかった苦しみと悲しみと愛情の残滓に満ちていた。

 

介護の現場がいかに切迫しているかを想像させる。

「子育てと親の介護」なんて文字にしてしまうとよくあることかもしれないけど、実際に背負っている人たちの負担はいかばかりか、全然想像できていなかった。

国は介護保険制度を用意し、生活保護制度を用意し、それで救われる人も確かにいるんだけど、救われない、「穴」にはまってしまう人もいる。

どこからも助けは来なくて、自分でもどうしたらいいのか分からない状況で見出した唯一の救いが殺人だったとすれば。男がそれを繰り返すしかなかった現実を今一度見つめ直す。

たぶん全員を制度で救うことなんてできないんだろうし、所詮木端役人には書類を受理することしかできない。この映画の問いかけてくるものに答えることは現状できないだろうけど、せめて心を寄せることはできるだろうか。

殺人に救いを見出す人々や、追い詰められて途方に暮れた人たちがこれ以上追い詰められないように。安全地帯を生きてる人間にできることはあるんだろうか。想像することに意味はあるのだろうか。

 

法ってなんだろうと思いながら、木端役人は法と情の間で揺蕩うしかないくらいの存在だ。

絶叫に耳を傾ける。

一緒に途方に暮れることしかできないかもしれないけど。