さてさてさて女王蜂の待望のニューアルバムが出ました。
アヴちゃんの書く詞は、聴く人間を世界観に取り込んでしまう、吸い込まれる、食われるような、言葉で構成されていてすさまじい。
『BL』の冒頭は『ムスク ミント ヴァセリン しーっ脱がすカルヴェン』香りと動きで開始3秒で聞き手を淫靡なベッドシーンに引きずり込むこの手腕よ。
さっきまで呑まれてたんだけど、田淵さんのアイドルソング詞を聞いてはたと我に返ってブログを書いている。かれこれ1週間ほど呑まれていました。
アヴちゃんの詞が小説なら、田淵さんの詞は哲学書だなと思う。『星に願いを/できるだけ愛を/おもいでしりとり/言葉をつないで/答えになれ/今季節はまるで天秤のように』見てこの！繋がっているようで全く繋がっていなくてなんとなく繋がっている詞！アイドルソングでも隠しきれない哲学書風味。超好き。
閑話休題。
十二次元すっごいアルバムなので正気に戻ったところでレビューを試みる。
1.油
『あのとき売ってた油はどこへ？』
鬼才による『もってけ！セーラーふく』だと思ったのは私だけだろうか。
2.犬姫
『骨を砕き肉は踊る 次はどなた？血が湧く』
今回は人か鬼かの領域に連れていかれる曲が多い。
前奏の和楽器がめっちゃクール。
3.夜啼鶯
『宿木は燃やしましょう ほらきれいクリスマスみたいに』この大胆な詞。
最後の「さあ参りましょう」が次曲への誘導になっていて蠱惑的。
4.MYSTERIOUS
『一番いい役をやりましょう 誰よりも悲しくて 殺せる役を』
『四角い海の果てでも変わる代わるは人模様
演じていることそれすらも忘れる世界』
『みんな籠の中の鳥いつか抜け出す日夢見
やっと手にしたそのとき大空へと戸惑う』
『名前をあげて安心させましょう』
この曲はむちゃくちゃ歌詞が良い。自分の演じる役を選べる人間と選べない人間が混在している世界を一歩引いて眺めてるみたいな。窮屈な安堵を覚える絶妙な詞。
5.KING BITCH
『ギークでチープや シックでクールな遊びをしてた』
これはもうタイトルから歌詞の隅々まで全部キングビッチで、なんだかんだで一番好きかも。わけのわからないかっこよさと生々しさがある。
6.バイオレンス
『ああまた正夢ばかり 浮腫んだ目を見開いた先には』
閉じた世界で確かに暴力的で痛そうで分かちがたく絡まっている。綺麗なんだよなあ。
7.杜若
『火の海だって私と居れば渡れるでしょうよなんてね』
8.回春
『「あの頃」と呼べるときがやって来ていたこと』
これは『奇麗』に収録されてる『売春』の後日譚なのだろうか。しかし「回春」というタイトルでこんなに美しいものが出てくるとは。
9.堕天
『ジョークを考えるより茶化すことのほうが
とても楽なのにそれを選べないひとたち』
『思い詰めてしまった夜の果てわたしたちは出逢い
持ち寄る孤独は灯火のように、胸に宿る』
『砂時計の残り一粒残らず好きに染めて使い切るだけ』
こちらは『緊急事態』を思わせるストレートな歌詞がいい。たっぷり聴かせてくれる。
10.ハイになんてなりたくない
『ハイになんてなりたくない絶対』
『焼ける粘膜 見たことない頭ん中溢れる唾液
まるでギリ足のつくプール』
薬物の歌なんだけどここで抜群の表現力が発揮されて渦中にひきずりこんでくる一曲となっている。劇物。
11.長台詞
『降る灰を見つめて 雪みたいって思った
無邪気に手を伸ばして 積もればいいなって』
ハイからの灰だなあ。これはアヴちゃんの独白形式で収録されている。むちゃくちゃかっこいい。
八百屋お七に心を寄せるような内容になっている。
12.十二次元
『位置を確かめて 逃げられないでしょう
散々やって来て 死ぬのが救いだなんて』
冒頭一から十二までのあまりにクールなあいうえお作文になっている。
『さあ誰のせいにもせずに 可愛いおばあちゃんになるの 歌い踊り 狙うは九つ先、十二次元』
タイトル回収。
かわいいおばあちゃんになりそうなアヴちゃんを想像してしまった。観たいなそれ。
女王蜂の食われちゃいそうなニューアルバム、ぜひご一聴あれ。
田淵さんとアヴちゃんって全然違う生き物で、でもこの人たちの対バンライブは最高で、未だによく分からないけど音楽にかける狂気とか熱量は同じくらいあって出力方法が違うだけなのだろうか。鬼気迫る感じは両方とも常にあるんだよなあ。
ユニゾンのニューアルバムも4月に出るので、どう展開してくるか今からすごい楽しみ。
前回のアルバムで言うと『世界はファンシー』ってタイトルで『某日ちょっと革命を起こし奴の王国は終わったなんて言ってしまったらどうする彼の全信頼はどうなる』と流れてきた時に度肝を抜かれるなどしたのでいいぞもっとやれーと思っている。
