ブログを遡ったら1年ぶりのFateでした。
セイバールートを全20巻で漫画化した作品。
◯自己犠牲型主人公の本懐がここに
我が身を省みず敵に突っ込んでいく主人公が、仲間に諭されて自己犠牲をやめる…という展開はわりとよく見かけるんだけど、衛宮士郎は新しかった。
この自己犠牲型の主人公は、自分の信念を絶対曲げない。どれだけ罵られても敵前に飛び出す。ついには周りの人たちが「このままじゃ危ないから稽古つけてやる」「あんたがそういう風なのは分かってるけど」と諦めてこの自己犠牲型主人公が死なないように協力しはじめる。
主人公の信念による暴走は止まらないので、周りのキャラクターたちがむしろ諦めて一緒に戦う、協力することを選んでいく。そもそも平気で命を懸ける人間の挙動についていくのは難しいはずなんだけど、そこは聖杯戦争ということで魅力的な強キャラが揃っているのである。
◯盛大な矛盾
物語も中盤に入ってくると、亡国を救うために聖杯を求めて聖杯戦争を戦うセイバーに「お前は解放されるべきだ。普通の女の子として生きてくれ」と懇願する士郎。
いや自分の普段の言動省みなよ。周りの人たちが衛宮士郎に対してどれだけ同じことを言ったか…と読者は呆れるし、セイバーは士郎がそうであるようにそんな忠告を歯牙にもかけず戦場に赴く。
このお互いの状況を歯痒く思っているジレンマがとてもおもしろい。相手を失いたくない思いと自分の譲れない信念から延々と平行線をたどるふたりが、最後はお互いへの絶対の信頼をもって別の戦場で戦う。
人に一歩も譲れない確固たる信念を持ったふたりが、譲らないながらも信頼するという結論に至ったのが清々しい展開だった。
◯こういう人物像
自己犠牲型というのは主人公の資質だ。
一般的に「あなたの他人を思う気持ちはすばらしいけど、周りだってあなたのことを思っているのだから、あなた自身のことも大事にして」という理屈を仲間から吹き込まれて、自分を鍛えるとか仲間を信頼するとかそういう方向性で「強く」なるのが王道だと思っていたけど、私は今回の展開がけっこう好き。
自己犠牲ってできちゃう時点で少なからず異常なので、際立つ異常さを丸め込もうとせずに、並び立ってその特異な性質の持ち主を支えようという周りの在り方がまた興味深い。自己犠牲主義者が「俺が皆を守る」と言えば、力のない一般人は助けてくれるのありがたいなーと特別視して崇めることしかできない気がするけど、この作品には強い人がたくさん出てくるので、「お前の力では無理だ」「助けるなんてばかじゃないの」と苦言を呈しながらもこの自己犠牲型主人公が理想とする道を死なずに歩けるように導いている。
さて約1ヶ月かけて漫画版Fate/stay nightを読み終えた。衛宮士郎は印象的な主人公だった。
魔術師という一般人とはかけ離れた思考回路の持ち主たちによる聖杯戦争という舞台の上だからこそ、衛宮士郎という異常なキャラクターも信念を譲ることなく、仲間を得て主人公になれる。そしてその異常さゆえに、遠い昔の英雄と情を交わせさえする。
おもしろいキャラクターだった。
他のルートではまたまったく違う話が展開するとのことなので、そちらも興味深い。