またたび感想録

観たもの聴いたもの読んだものの感想を述べます。

鴨長明『方丈記』

方丈の庵で日々は過ぐ。

 

『年収90万円でハッピーライフ』の著者が方丈記に絡めた書籍を出していたので、せっかくなら方丈記を読んでみるかと思い。年内に悪霊とFate/Zeroを読み切るつもりだったのに、割り込みの連続で来年に持ち越しの見通し。

 

鴨長明はなかなか不遇の人だったらしい。

生きているうちに京都の市中が燃える大火に家々が巻き上がる風害、何年も続き屍の山を築いた飢饉や大地震を目の当たりにしている。

当人もあの下鴨神社禰宜の子として生まれながら、禰宜には別の親戚が就いてしまい、家も出されて熱心に取り組んでいた和歌の仕事も辞めて山奥に方丈の庵を結ぶに至る。

大きな家屋も地位も名誉も手にしないまま住まった小さな家で、散策をしたり歌を歌ったりしてささやかながらも穏やかな日々を過ごし、生涯を終えた。

 

これが方丈記の内容で、あとは現代語訳した方の論説や原文などが載っている。これがまた、世を捨てて仏道に励む人のように見えて、俗世のことをちらちらと気にせずにいられない鴨長明の姿を浮かび上がらせてくれておもしろい。

個人的には飢饉の描写が衝撃で、飢えて家々を訪ねる人が次の瞬間ばたりと死んでしまったり、河原に並ぶ死体が何万とあったり、家を壊して薪を作っても1日分の食料も得られない想像もつかない地獄絵図が描かれている。

東日本大震災の犠牲者が2万人くらいだから、ああいう悪夢のような現実が平安の昔から繰り返されてきたのだなあと。そう思うとまず自分の住まいが今に至るまで災害に遭っていないことが幸運だよなと思ったりする。

 

方丈の住まいでの暮らしぶりの描写は、のどかでほのぼのとしている。小さなスペースで日々をおもしろく営んでいく姿は、想像すると心が和む。

いくつもの無念を重ねてたどり着いた終の住処なのかなと思う。