星の王子さまミュージアムが3月に閉館するというので、来訪前の予習で再読。
初読は数年前だったはずだけど、内容はほとんど覚えていなかった。前読んだ文庫とは違う文庫で読んでいるので、翻訳が出版社によってだいぶ違うのかもしれない。
・もやもや…からはじまる
飛行機の故障でアフリカの砂漠に不時着した男の前に小さな子どもが現れて、男の質問にはまったく答えずに「羊の絵を描いて」と訴えてくる。
大人たちは大事なものがちっとも分かっていない、覚えていない、と。
序盤はかなり抵抗を感じた。王子さまの言動ひとつひとつが大人を否定してくるから。人によって大事なものはちがうのに、この小さな王子はそんなもの大事じゃないとやすやすと否定する。余計なお世話じゃないか。
しかしながら、小さな王子が大切にしているものは確かにとうといものだった。
・とうといもの
数えきれないほどあるバラやキツネの中のたったひとりの友達。
大人たちが忙しさにかまけて見ようともしない美しいものたち。
時間をかけて何かを大切に思うこと。
ありきたりでも根本的でとてもとうといこと。
砂漠の真ん中で飛行機の事故に見舞われながら王子さまに絡まれている主人公のシチュエーションを思うとたいそう気の毒だけれど…王子はたしかに大事なことを語りかけている。
「羊の入った箱の絵」を受け取って、理想の羊を想像するのもまた、とってもいい。
・死んだように見えるかもしれないけど
水も尽きた8日目に主人公は飛行機を直し、王子さまは星へと帰っていく。
二人で井戸を探した日、渇きに苦しみながらも主人公は王子さまと歩き、星を見上げ、砂漠の美しさに気づき、井戸が見つかれば王子さまに真っ先に水を贈った。
生きるか死ぬかの必死の場面で、主人公はそういう恐怖に囚われることなく、世界の美しさを味わった。主人公もまた、すっかり王子さまの友達になっていた。
身体を置いて星に帰る王子さまを主人公は惜しんだ。「死んでいるように見えるかもしれないけど、それはほんとうではないからね」王子さまの笑い声が全ての星から主人公に聞こえるように、主人公が王子さまに贈った水のある泉が全ての星にあるかのように、王子さまは語って去った。
星を見上げたら思い出すように、なんていうのはロマンチックが過ぎる。
ロマンチックが渋滞を起こしている作品だった。
作中に出てくるステレオタイプな大人はさすがにいないだろうから、きっと読後は大人にだっていつかの風景を惜しみながら振り返る気持ちが芽生えるような気がする。
世界の美しさを知りながら生きてゆける、そして死んでゆけるのはきっと幸せなことだろう。