またたび感想録

観たもの聴いたもの読んだものの感想を述べます。

『ゴッホ・アライブ』

ゴッホの特殊展示を観てきた。

ゴッホといえば塗り重ねられたまばゆい黄色の濃い油彩のイメージ。ひまわりや教科書で見たタンギー爺さんの絵などは印刷物ながらも画面の濃さに圧倒された記憶がある。

数年前にゴッホゴーギャン展が開催されていて、確か行けなかったんだけど、ゴッホが自分の耳を削いだエピソードをその時に知って、情緒不安定な画家だったんだなーという印象もあった。

 

ゴッホ・アライブは導入でゴッホの絵の世界に鑑賞者が入り込める「星月夜」「ひまわり」と私室を描いた絵をイメージした部屋展示がある。

イルミネーションや鏡、トリックアートなどいろんな手法が盛り込まれていて、ついつい写真を撮ってしまう楽しい催しとなっている。

 

次にゴッホの絵とそれを描いた時期のエピソードが語られる。

ここは一転、当時のゴッホの不安定な精神状態やそれにまつわるエピソードが10編ほど展示されている。星空の描き方を妹に語っていたエピソードからたったの2年後に、ゴッホは畑へ行く道の真ん中で自身を銃で撃ち抜いてしまう。どうにもならない。ゴッホの椅子はゴッホ自身に愛されることはなくて、空は重く暗いのだった。

 

最後にゴッホの生涯で制作した作品を複数のスクリーンで見せる大部屋がある。

これもまた、絵の一部をアニメーションで動かしたり、拡大したり分割したりして、躍動感のある動画になっている。

どうにも生涯を曇り空のまま過ごしたらしい画家の絵は、分厚く塗り重ねられていながら、顔の皺や筋肉のひとつひとつまでがそこに在りそうな現実味を帯びる。

星月夜のぐるぐると回転する空は、不安を表象したファンタジーなのだろうか。なんともロマンチックに描かれているけど、不安だったのか。

 

ゴッホは何を思って生涯を過ごしたのだろう。彼の気質や行動はなかなか他者に受け入れられるものではなく、孤独に職場や居所を転々としていたらしい。孤独だっただろうか。晩年には絵が高い評判を得るようになっていたのに、『幸福は一晩遅れてやってくる』だったのだろうか。それとももう絵を描くだけでは自分の心を救うことができなかったのか。37歳で彼は逝った。

 

彼は生きる苦痛を筆に託したのだろうか。常人なら苦しみながら生きたくはないと目を逸らすだろう。逃れられないままに苦しんで生きながら、描き出された作品たちの美しいこと。苦痛の中で見る世界すら美しいのなら、人はそこに救いを見出すのではないだろうか。

 

特殊展示もおもしろかったけど、余計生の絵が見たくなる。ゴッホ展がいつかまた開催されないかなと期待している。